大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松地方裁判所 昭和50年(ワ)155号 判決

原告

宝田ハナ子こと宝田ハナコ=

ほか六名

被告

富士運送株式会社

ほか二名

主文

一  被告らは、原告宝田ハナコに対し、連帯して、金一四六万五、五六七円及び内金一二一万五、五六七円に対する昭和五〇年七月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告宝田明美、同宝田久男、同岡田八重子同漆原美枝子、同荻田多加子及び同中山久美子に対し、連帯して、各金四〇万五、一八九円及びこれに対する昭和五〇年七月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告らに対するその余の請求は、いずれもこれを棄却する。

四  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は、原告らの勝訴部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

(一)  被告らは、原告宝田ハナコに対し、連帯して、金二三九万一、九〇〇円及び内金一八九万一、九〇〇円に対する昭和五〇年七月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被告らは、原告宝田明美、同宝田久男、同岡田八重子、同漆原美枝子、同荻田多加子及び同中山久美子に対し、連帯して、各金六三万〇、六三三円及びこれに対する昭和五〇年七月九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は、被告らの負担とする。

(四)  仮執行の宣言

二  被告ら

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  事故の発生

訴外宝田源一(以下源一という。)は、昭和四九年一一月二八日午後二時四〇分ころ、高松市川島本町一八九番地先道路(以下本件道路ともいう。)左(北)端を西から東に向い自転車に乗つて進行中、対向してきた被告古谷昭(以下被告古谷という。)運転の大型貨物自動車(番一一あ一三七四、以下加害車という。)に衝突し、その結果、同所にて即死した。

(二)  責任原因

1 右事故は、被告古谷の次のような過失に起因する。

すなわち、被告古谷は、加害車を運転し、本件道路を東から西に向い進行するにあたり、折から過労のため眠気を催し注意力が散漫となり前方注視が困難な状態となつたのであるから、直ちに運転を中止し眠気をさまし、前方左右を注視し進路の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、眠気を催し注意力が散漫となつたまま、たまたま同方向に進行中の自転車乗りを暼見し、これを避けようとして、反対方向からの交通状況を注視しないで漫然時速五〇キロメートルで道路中央から右側に進出した過失により、本件事故を起したものである。従つて、被告古谷は、民法七〇九条により本件事故による損害を賠償する責任がある。

2 被告富士運送株式会社(以下被告富士運送という。)は、加害車の所有者であり、自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償法(以下自賠法という。)第三条本文により本件事故による損害を賠償する責任がある。

3 被告有限会社佐藤興産(以下被告佐藤興産という。)は、被告古谷の雇主であり、本件事故は、被告佐藤興産の業務の遂行中に被告古谷の前記過失により発生したものであるから、民法第七一五条第一項本文により本件事故による損害を賠償する責任がある。

(三)  損害

1 源一の逸失利益 金四一九万七、〇一〇円

(1) 源一は、明治三六年一月一五日生まれの健康な男子で、本件事故当時七一歳であつたから、本件事故に遭遇しなければ少なくとも今後一一年(ホフマン係数は八・五九)はその余命があり、また少なくとも事故後五年間(ホフマン係数は四・三六四)は就労が可能であつた。

(2) 源一は、本件事故当時農業に従事し、自動車損害賠償責任保険(以下自賠責保険という。)の有職者に対する最低基準日額一、七〇〇円を下まわることのない収入をあげていた。

(3) 源一は、厚生年金として年額一五万一、一八八円を、また専売公社共済年金として年額一〇二万一、五二六円を受領していた(但し、専売公社共済年金については、源一死亡後妻である原告宝田ハナコにおいてその二分の一の額を受給しているので、その額を控除する。)。

(4) ところで、源一の生活費は、収入額の五〇パーセントであるからこれを控除して、新ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除すると、逸失利益は次のとおり金四一九万七、〇一〇円となる。

1,700×365×50/100×4.364=1,353,931(円)

(151,188+1,021,526/2)×50/100×8.59=2,843,079(円)

1,353,931+2,843,079=4,197,010(円)

2 源一の慰藉料 金八〇〇万円

源一は、一家の中心として家族の支えとなつていたものであり、これに被告らの示談に対する誠意なき態度などを考慮すると、源一に対する慰藉料は八〇〇万円が相当である。

3 原告らの支出した葬儀費用 金三四万二、六九〇円

原告らは、源一の葬儀費用として三四万二、六九〇円を要したので、これを後記の法定相続分の割合に従つて支出した。

(四)  相続関係

1 原告宝田ハナコ(以下原告ハナコという。)は、源一の妻であり、原告岡田八重子(長女)、同荻田多加子(次女)、同漆原美枝子(三女)、同中山久美子(四女)、同宝田明美(五女)、同宝田久男(長男、以下右六名の原告を、その余の原告ら六名ともいう。)はいずれも源一の実子である。

2 原告らは、源一の死亡による同人の前記(三)の1、2の各債権を法定相続分の割合に従い、原告ハナコは三分の一にあたる四〇六万五、六七〇円を、その余の原告ら六名は各九分の一にあたる一三五万五、二二三円をそれぞれ相続した。

(五)  損害の填補

原告らは、本件事故により、被告古谷から二二万五、〇〇〇円、自賠責保険(被害者請求)から六八三万九、〇〇〇円、合計七〇六万四、〇〇〇円を受領した。そこで、原告らは、右金員を法定相続分の割合に従つて分割し、前記(三)3及び(四)の各損害に充当した。

(六)  弁護士費用

原告らは、本件訴訟を原告ら訴訟代理人弁護士奥津亘同佐々木斉両名に委任し、同弁護士らに着手金二〇万円を前記相続分に従つて支払い、謝金五〇万円を、判決時に原告ハナコが支払う約束をした。

(七)  よつて、被告らに対し連帯して、(一)原告ハナコは金二三九万一、九〇〇円及び内金一八九万一、九〇〇円に対する本件訴状が被告らに送達された日の翌日である昭和五〇年七月九日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、(二)その余の原告ら六名は、各金六三万〇、六三三円及びこれに対する前同日から支払済まで前記同様の遅延損害金の各支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

(一)  被告ら

1 請求の原因(一)項の事実は認める。

2 請求の原因(三)項1の事実のうち、源一が農業に従事していたとの点は否認する、その余は不知。年金の受給権は逸失利益の対象とはならない。同2の事実は争う。慰藉料は高額にすぎる。同3の事実は不知。

3 請求の原因(四)項1の事実は認める。同2の事実は不知。

4 請求の原因(五)項のうち、原告らがその主張の金員を受領したことは認めるが、その余の事実は不知。

5 請求の原因(六)項の事実は不知。

(二)  被告古谷

請求の原因(二)項1の事実は認める。

(三)  被告富士運送

請求の原因(二)項2の事実は否認する。加害車の所有者は、被告佐藤興産である。

(四)  被告佐藤興産

請求の原因(二)項1、3の各事実は認める。

三  被告らの抗弁

本件事故発生については、源一にも次のような過失がある。すなわち、源一は、加害車が子供の自転車を避けようとして道路右側に寄つてきているのを認めることができたのであるから、さらに道路左端に寄るなどすれば、本件事故を回避することができたのであり、そうしなかつたことについて源一に過失がある。従つて、損害額の算定につき過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁に対する原告らの認否

被告らの抗弁事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  (本件事故の発生)

請求の原因(一)項の事実は、当事者間に争いがない。

二  (被告らの責任)

(一)  被告古谷について

請求の原因(二)項1の事実は、原告らと被告古谷との間に争いがない。従つて、被告古谷は、民法七〇九条により本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

(二)  被告富士運送について

成立に争いのない甲第七号証、乙第一号証、証人佐藤吉行の証言ならびに被告古谷昭本人及び被告富士運送代表者高尾忠義の各供述を総合すると、佐藤吉行は、昭和四八年一月一二日加害車を月賦で購入し、これを使用して無免許で運送業(昭和四九年八月、被告有限会社佐藤興産を設立し、同被告に右運送業を引継いだ。)を営んでいたが、右佐藤吉行と被告富士運送の代表取締役高尾忠義とは同町内に住み、かつての同業者で懇意であつたことから、昭和四九年七月ころ、車両二一台を所有して運送業を営んでいる被告富士運送に対し、加害車の使用名義の貸与方を申入れたところ、被告富士運送は、右申入れを承諾し、自己所有の登録車両一台を廃車にしたうえ、加害車を被告富士運送名義で使用することを許し、かつ、自賠責保険の加入名義人になつたこと、そして、被告富士運送は、自己の車両に不足を生じたときは被告佐藤興産に応援を求め、被告佐藤興産はこれに応じて加害車を運転手(被告古谷)付きで被告富士運送に貸与していたことが認められ、証人佐藤吉行の証言、被告富士運送代表者高尾忠義の供述中右認定に反する部分は前記被告古谷昭本人の供述に照らして信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上の事実によると、被告富士運送は、加害車を同被告名義で使用することを許容したばかりでなく、車両に不足を生じた都度、運転手付きで現に加害車を使用していることが明らかであり、これらの事実に徴すると、同被告が加害車の運行を支配し、運行による利益を有していたと認めるに十分である。従つて、被告富士運送は、自賠法第三条本文所定の運行供用者として、本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

(三)  被告佐藤興産について

請求の原因(二)項1、3の事実は、原告らと被告佐藤興産との間に争いがない。従つて、被告佐藤興産は、民法七一五条第一項本文により本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

三  (源一の損害)

(一)  逸失利益 金三二六万八、〇一二円

1  成立に争いのない甲第三号証及び第四号証の各一、二、原告宝田ハナコ本人の供述により真正に成立したと認められる甲第五号証、同原告本人及び原告宝田明美本人の各供述ならびに弁論の全趣旨を総合すると、源一は、明治三六年一月一五日生まれ(事故当時満七一歳)の健康な男子であつて、玉藻産業有限会社を退職した後、田畑合計三、三一〇平方メートルを耕作して農業に従事し、米及び野菜を栽培していたほか、厚生年金として年額一五万一、一八八円、専売共済組合年金として年額一〇二万一、五二六円の給付を受けていたことが認められ、右認定に反する乙第二号証(宝田ハナ子の巡査部長に対する供述調書)中に記載部分は前示各証拠に照らし信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

ところで、厚生省作成の昭和四九年簡易生命表によれば、満七一歳の男子の平均余命は九年(原告ら主張の平均余命は女子のものである。)であるから、源一が本件事故によつて死亡しなければ、なお右年数の間生存し得たと推認され、かつ、同人の健康状態、職業などを考慮すると、同人は、本件事故にあわなければ、事故後なお五年間は稼働可能であると考えられる。

2  源一の農業従事による収入は、証拠上必ずしも明確とはいえないけれども、原告宝田ハナコ、同宝田明美各本人の供述によると、源一は、同人を含む家族四人の費消する米及び野菜を賄うに足りる程度の米と野菜の収穫を得ていたことが認められるから、この収益は一日一、七〇〇円(自賠責保険の有職者に対する最低基準日額)を下まわることはないと考えられるので、少なくとも前記稼働可能期間は年額六二万〇、五〇〇円を下まわることのない収入をあげることができたものと推認することができる。

3  源一の前記の各年金はその生存期間中給付されるものであるところ、専売共済年金については、源一死亡後妻原告ハナコがその半額にあたる金員の給付を受けていることは原告らの自認するところであるから、これを控除すると、源一の年金の合計は年額五二万五、九五一円となる(なお、当裁判所は、右各年金についても逸失利益の対象となると考える。)。

4  そして、源一の年齢、職業、家族関係、収入額、その他諸般の事情を考慮すると、同人の生活費は右収入の五割と認めるのが相当である。

5  以上の事実を基礎として、源一の得べかりし利益の現在価額を新ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して算出すると、次のとおり三二六万八、〇一二円(円未満切捨、以下同じ。)となる。

620,500×1/2×4.3643=1,354,024(円)

525,951×1/2×7.2782=1,913,988(円)

1,354,024+1,913,988=3,268,012(円)

(二)  慰藉料 金七〇〇万円

源一が本件事故によつて不慮の死をとげたことにより甚大な精神的苦痛を被つたであろうことは、察するに余りある。これに本件事故の態様、殊に本件事故発生については後記のように源一に過失が認められないこと、源一の年齢、事故後における示談交渉の経緯、その他本件に現われた一切の事情を考慮すると、源一に対する慰藉料は七〇〇万円をもつて相当と認める。

四  (相続関係)

請求の原因(四)項1の事実は当事者間に争いがない。そして、原告らが、源一の死亡により前項(一)(二)の損害賠償債権を法定相続分の割合に従つて相続したことは、原告らの自認するところである。そうすると、原告ハナコは、前記源一の損害賠償債権の三分の一にあたる三四二万二、六七〇円を、その余の原告ら六名は右債権の各九分の一にあたる一一四万〇、八九〇円をそれぞれ相続したことは明らかである。

五  (過失相殺)

前記請求の原因(一)項および(二)項1の事実に、成立に争いのない甲第八号証の一ないし七ならびに第八号証の九及び一〇を総合すると、本件道路は東西に通ずる見とおしのよい幅員約六・六メートル(中央線を有する。)の直線道路であり、源一は自転車に乗つて右道路を西から東に向つて道路の左(北)側寄りを進行していたところ、反対方向から時速約五〇キロメートルで突然中央線を越えて進行してきた被告古谷運転の加害車に衝突されたものであるが、その衝突地点は道路左(北)端から約一・一メートル道路中央によつた地点であること、被告古谷は衝突するまで源一に全く気づいていなかつたことが認められる。このように、源一は、自転車に乗つて道路左(北)端から約一・一メートル道路中央寄りの地点を通行しているのであり、これに対し加害車が突然道路中央線を越えて進行してきたものであるから、源一において右事故を避ける余地はなかつたというべきであつて、右事故発生につき源一に責められるべき落度があるとは到底認められない。

六  (葬儀費用)

原告宝田明美本人の供述により真正に成立したと認められる甲第六号証の一ないし三三及び同原告本人の供述ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告らは、源一の葬儀費として三四万二、六九〇円を支出し、これを法定相続分の割合に応じて負担したことが認められる。そして、右金額は、源一の年齢、経歴、社会的地位などに鑑みると、源一の葬儀費用として相当な額であると認められる。そうすると、原告ハナコは一一万四、二三〇円、その余の原告ら六名はそれぞれ三万八、〇七六円を支出したことになる。

七  (損害の填補)

原告らが本件事故により、被告古谷から二二万五、〇〇〇円、自賠責保険から六八三万九、〇〇〇円、合計七〇六万四、〇〇〇円の給付を受けたことは当事者間に争いがない。

そして、原告らが右七〇六万四、〇〇〇円を法定相続分の割合に従い、原告ハナコが二三五万四、六六六円、その余の原告ら六名が各七八万四、八八八円をそれぞれ分割取得し、これを前記各債権に充当したことは原告らの自認するところである。そこで、右各金員を控除すると、原告らの損害の残金は、原告ハナコにつき一一八万二、二三四円、その余の原告ら六名につき各三九万四、〇七八円となる。

八  (弁護士費用)

証人中山忠方の証言および弁論の全趣旨を総合すると、原告らは、被告らが任意に損害の賠償に応じないので、原告ら訴訟代理人弁護士奥津亘、同佐々木斉両名に本件訴訟を委任し、着手金合計二〇万円を原告らの法定相続分の割合に従つてそれぞれ支払い、謝金として五〇万円を判決時に原告ハナコが原告ら全員のために支払う約束をした事実が認められ、右認定に反する証拠はない。そして、本件事案の難易、請求額、本訴において認容する額、その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は、原告らが法定相続分の割合に応じて支払つた着手金につき合計一〇万円(原告ハナコは三万三、三三三円、その余の原告ら六名は各一万一、一一一円)、原告ハナコが支払う謝金につき二五万円が相当である。

九  (結論)

以上のとおりであつて、原告らの本訴請求のうち、被告らに対し、連帯して、原告ハナコにおいて金一四六万五、五六七円及び内金一二一万五、五六七円に対する本件訴状が被告らに送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和五〇年七月九日から支払済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の、その余の原告ら六名において各金四〇万五、一八九円及びこれに対する右訴状送達の日の翌日である昭和五〇年七月九日から支払済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める部分は正当であるから認容し、その余の部分は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口茂一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例